五代目の挑戦

  • London Craft Week 2019

London Craft Weekに参加。
尾州の毛織物を使った新たな挑戦。

London Craft Week 2019に参加する事を決意した。今回はその中でもCrafting Japanという日本の工芸を紹介するイベントへの参加となった。実際にロンドンで実演をするということで、僕の出来る事とはと考えた。イギリスの方の暮らしにどうやったら、日本の布団が馴染むのだろうと考えた時に新たな価値と製品作りが必要だと思った。(ちなみにイギリスには「FUTON」という言葉は浸透しているそうです。現地でも何度も聞きました。)あまり特殊な事ではなく、あくまで日用品なので、普遍的な物にしようと考えた。

さて、日常の暮らしに溶け込ませるプロダクトとは何か?色々と話を聞く中で、全ての方に焦点を合わせるのは無理だと思い(それは日本でも同じですが)、僕が思う事をまとめてプロダクトを製作しようと考えた。

キーワードは「伝統・技・素材・使い続ける」この4つを掲げた。

「伝統」

イギリスと言うと僕の偏った考えだと、長い伝統を持ったブランドが多いような気がする。しかもその伝統的なブランドが革新的な動きをしているようにも見える。今回僕は伝統的な「日本の布団」を持って行くが、ただそのままではなく、現代の生活に合った「日本の布団」を持って行くことにした。

「技」

今回展示会に出るにあたり、僕が職人として何が出来るか考えた。今までの経験で、ただ布団や座布団を置いておくだけでは絶対に伝わらない。やはり職人だからこそ出来る実演をする事に。基本的に材料さえ揃えば、電源は要らず、綿・生地があれば布団が仕立てられる。実際に手で作る様を見てもらえれば、言葉や知識がない外国の方にも伝わるはずと思っている。

「素材」

ライフスタイルに合う素材を選ぶ事が必要だ。中身(綿)は変えず、生地は日本では使っていないウールの生地を使おうと思う。良い事に愛知県の尾州はウール生地の産地だ。以前Lexus New Takumi Projectのイベント(LEXUS 一宮店でのワークショップ)の時に紹介して頂いた葛利毛織物さんを思い出し、生地を使わせて頂く事に。

「使い続ける」

以前から好きなブランドである Barbour はオイルを塗り直しながら手入れをして使い続けると言う。僕はそんな物を大事にする心を持っているイギリスの方を思うと、布団は昔から行われている「打ち直し」を想像する。打ち直しと言うと昔からある手法だか、近年よく言われる事がある。「打ち直しなんてする人いるのですか?」 この言葉をよく耳にする。非常に残念だ。日本人が昔から行ってきた物を大切にする打ち直しを、古臭いと切り捨ててしまうには寂しすぎる。今回僕は手入れをすれば使い続けられる事を伝える事が重要と言おうと思う。これは全人類が大切にする事なのだと思う。

物作りの始まり

さぁ実演に出る為にはまずは新たな開発をする事から始めた。
まずは生地選びから。葛利毛織物さんに向かい、ションヘル織機の生地の説明と在庫の中から今回の製品に合うものを探す。

イメージはスーツのようなウール地ではなく、ツイード・ヘリンボーン・メルトン地やウールとシルクの混紡も使う。普通の布団には使わないものを選んだ。

イギリスの価値観と向き合う

今回は座布団・布団・「KYO-SOKU」を持っていこうと思う。コンセプトについてだが、「KYO-SOKU」はLEXUS NEW TAKUMI PROJECTの時に出来ているので大丈夫だが、布団と座布団はどうしたものかと考える。そんな時、Lexus New Takumi Project2017の大阪代表の矢作さんから色々とイギリスの方について聞く事が出来た。今イギリスではメディテーション(瞑想)をする事が流行っており、禅などの文化も浸透していると言う。以前スティーブ・ジョブズもメディテーションを大切にしていると本で読んだ事がある。この路線だなと思いつく。そこで座布団を作りコンセプトを考える。

「ZEN Zabuton」

これで一気にイメージを作り上げ、リーフレットのイメージまで行けた。 そのイメージを 「16 Design」の鈴木さんに僕の考え・布団作りの事を伝え、落とし込んでもらう事に。
出来上がった。完璧なデザイン。感動するしか他にないと思う。布団も同じ様な感じで作り上げた。

Crafting japan

さぁ、準備が整い、いざイギリスへ。
展示会はDartmouth Houseというハイドパークからすぐのクラブハウスだ。伝統と格式を併せ持った、重厚感な建物と内装だった。ここで日本の布団を作るとは。夢の様だ。

きっとロンドンで座布団を作る実演をしたのは業界では僕が初めてだと思う。そんな想いを持ち、全国から集まった有数のメーカーの方達と一緒と「Crafting japan」が始まった。

お客さんは勿論イギリスの方だが、中にはイギリス在住の日本の方やフランス・スイスからも来ていた。

自身の技術が通じた瞬間

僕の実演に興味を持ってもらい、色々と話をさせてもらった。実際の使い方だったり、質問だったりと楽しくデモンストレーションが出来た。特に角を作るところは驚くのは万国共通だった。やはりモノづくりに国境はない気がした。
出来上がった座布団に座ったり、それにちなんだ色々な話が出来た。聞くとメディテーションをすると答えた方も多く、自分と対話する事を大切にしているのだと思った。

また今回のロンドンのイベントにはThe Creation of Japanが主催する工芸ピクニックもやる事になっており、今回作った「KYO-SOKU」をピクニックで使う事にした。実際に使う事をイメージして、下になる部分はポリエステルの生地にして、汚れにくい様に工夫した。

工芸ピクニックでも実演をさせてもらい、尾州の生地と座布団の良さを伝えさせてもらいました。

国境を超えて伝わった「布団」

今回発表した尾州の生地を使った布団・座布団・KYO-SOKUはイギリスの方に「FUTON」ではなく「布団」として認識してもらえたと思う。実際のモノづくりを目の当たりにすることで、少なからず日本の布団・生地に対して好印象を持ってもらえた。また今回イギリスでの体験を元に感じたことは、日本以外の国の方にも職人の手仕事やモノの良さというのは伝わるのだと実感し、今後のモノづくりに反映していきたいと思う。それは全てのモノづくりに携わる人にとっての課題とも捉えることが出来た。